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書道人物事典
書の偉人達を紹介します。
執筆: 小池青皚

李陽冰(生卒年不祥)について
 当初、本名を李潮といい、陽冰は本来、字であったのですが、杜甫(唐詩の第一人者)の「李潮八分小篆歌」で有名な李潮が李陽冰と同一人物であるという事実から、字の方が世に通ってしまったため、後に自身で陽冰を名として、改めて少漫と字したといわれています。河北省趙県の出身で、詩聖李白の従叔と伝えられており、若くして詩や文章を能くしました。官職は縉雲令等を歴任したのち将作少監にまで至っています。元来、梁昇卿、韓択木、史惟則、蔡有鄰、徐法等とともに唐代八分隷の名手と謳われ、又、篆書においても天才と称されており、「その見事さは李斯(秦の宰相であり、小篆の考案者と伝えられている人物)を凌駕する。」とまで讃美されました。李陽冰の篆法は李斯の書である山碑を観てその法則を得たのちに、三十年の歳月を全て小篆を書くことのみに費やし一家を成したといわれています。李陽冰は相当の自信家であったらしく、自らの書を称して「李斯以後の作家の中では曹喜や蔡(いずれも小篆の名手)などは言うに及ばず、私以外には存在しない。」と豪語したといわれていますが、事実、舒元輿(唐代の学者)の著書「玉篆志」では「李斯が没して千年あまりになるが、天は唐の時代に李陽冰を下賜された。しかし今後、このあとを継ぐ者が出現するのだろうか。もし、もう千年たっても現われなければ、篆書は李陽冰で終るだろう。」と述べ、李陽冰の小篆を激称しており、又、北宋時代の宣和書譜の中でも「顔真卿(唐の四大家の一人、中唐以後、王羲之と比肩される大家)は建碑にあたり、自分の碑文には必ず李陽冰の篆額をあて、連壁の美を誇った。」と記されている通り、唐以後の各時代にあって絶えず神品にランクするなど、極めて高い評価を得ています。
  李陽冰の小篆の特徴としては、常時、同じスピードと同じ筆圧によって中鋒を維持し、その線にまったく肥や強弱を加えず、無機質に表情を表に現わすことなく淡々とした筆致で書いていく玉篆という書法です。現存する李陽冰の篆書はその全てがこの書法によって書されており、玉篆こそが、李法の本領といっても過言ではないでしょう。
  現在に伝わっている李陽冰の書には、城隍廟碑(759)、怡亭銘(765)、李氏三墳碑(767)、般若台記(772)、滑台新駅記(774)、崔祐甫墓誌蓋記(780)、謙卦銘(766〜779)等が存在していますが、その多くは重刻されたものであり、その真を伝えるのは困難であるとされています 。
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李氏三墳記
【りしさんぷんき】
 西安碑林の第二室に列置されており、碑の大きさは210×82cm、その碑陽は13行で毎行20字、碑陰は11行で毎行20字から成っている。その内容は李曜卿達三兄弟を讃えた墓碑銘で、李陽冰得意の玉篆にて書かれており、文字数も多く史料としても貴重である。
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図1
滑台新駅記
【かつだいしんえきき】(774)
 その原石は北宋末期ごろまで河南省滑県に存在していたが、その後亡佚したといわれている。現存する残石は元来、明代初期のころに重刻されたものである。その内容は火事によって焼失してしまった滑州駅を756年に再建したときの情況を記したもので、なんのためらいもなく押し切るようなその筆法は見事である。
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図2
崔祐甫墓誌蓋記
【さいゆうほぼしがいき】(780)
 開封市博物館に収蔵されており、出土年代は不祥である。誌石の大きさは106×106cmであり、李陽冰の書である篆額部も65×65cmという大きさである。本文の隷書は徐【じょきょう】(唐代の八分隷書の名手)であり、篆額、本文共に唐代一流の名家が書している。その篆額は四行毎行三字から成る全12字しかないものであるが、重刻ではなく、貴重な原刻である上に建中3年(780)の紀年があるとおり、現存する李陽冰の作の中でも最晩年にあたる書であり、非常に貴重な史料といえよう。その書風は堂々たる玉篆で、李陽冰の本領発揮の秀作である。
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図3

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図4
謙卦銘【かつだいしんえきき】
(766〜779)

 安徽省蕪湖県に現存する刻石は明代初期の重刻であり、原刻はすでにない。現存する刻石は四体の石から成り、一石か三石までは各6行で毎行10字、四石のみ四行で毎行10字から成っている。その内容は「周易」の中の謙卦の部分を書している。王(清代の学者)は「李陽冰の篆書中、もっとも奇絶の作である。」と称しているが、他の李書と比較すると、その趣きの違いを感じざるをえない。
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図5
図1,2,3,4,5 『中国書道全集 第四巻 唐U・五代』(平凡社)
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